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それは、恐怖という名の愚かさ
「そう、俺は天使だ。だけど、たとえ天使でも、悪魔を倒す力を持つには、彼らと同じ強い「力」を人々の前で振るわなきゃならない」
「英雄」「神の使い」かつてそう呼ばれた彼は、寂しげに笑った。
「その強い「力」が自分に害を及ぼそうと及ぼすまいと、人にとって「力」は脅威なんだ。人々のために力を振るうということは、そういうことだ。・・・過ぎた力は迫害の対象になる。それは、どの世界でも同じことだ」
堕天使ルシフェル。それが彼の今の名だった。嫌悪と忌避と恐怖の感情をこめられて囁かれる彼は、その昔、世界を侵さんとする邪神たちと最も勇敢に、苛烈に戦った者だった。 しかしそのあまりに激しい戦いに、彼は「鬼神のような」と揶揄され、邪神が倒れた後は皆が彼に恐怖するようになった。世界を救った彼は神々から天使の長の位を剥奪され、邪神が封じられる冥府の底に堕とされた。
世界を救った代償に、あまりに酷い仕打ちを贈られた彼は。
世界に轟く数々の逸話とは裏腹に、儚く、ひっそりと微笑った。
「俺一人で世界を救おうとした事の、これが代償だ」
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誕生
彼女は、誰もが認めるほどに絶世の美女だった。 蜜の滝のように波打つ美しい髪。吸い込まれそうな魅力と強い意志を宿す深紅の瞳。 細い顎、すっと通った鼻梁。透き通るような白い肌に、華奢だが強靭で、しなやかな身体。
「なんて美人だ……」
呟いた男にその宝玉のような瞳をちらと向け、たおやかな繊手を伸ばして、彼女はその薄く色づいた花弁のような唇を開いた。
「私を美しいと言ったのは、あなた?」
その艶麗な美声に思わずうっとりとなる男の頭を両の手でそっと掴んで、
「美しいだなんて。よくもまあ言えたもんだわね?美しいから何か良い事でもあるのかしらぁ?なんとかおっしゃいこの●×△◆野郎」
「あぁいアッだだだだだだだだだだだだだ!?」
凄まじい勢いで男のこめかみをごりごりと削る。男は白目を剥いて悲鳴を上げる。
そこに、怜悧な、氷刃のような凄まじく美しい声音が響く。
「何を言う。そこの女の顔なぞ単なる美女だろう。この俺の国どころか世界を滅ぼせそうな美貌を見てからその言葉を吐くんだな」
彼は、誰もが息を呑むほど美しい顔立ちをしていた。 銀色の狼のように波打つ氷色の髪。 威と意を秘めて輝く蒼の双眸はその鋭さゆえに人を射貫く。 至高の芸術と謳われる神の造形を想起させる顔立ち、それを少し鋭く整えたような。 象牙色の肌はどこまでもなめらかで、黄金律の姿態は決して華奢ではない中に鋼のような強さを備えている。
「ああっ!その通りよ!私など貴方の足元にも及ばないの!」
美女が男をぽいと放り捨て嬉しげにそう唱和する。
「俺の神にも勝る美貌が、たかが絶世の美女などに劣る訳が無いだろう」
「ええ!そうよその通り!私は美しくなんかないんだわ!」
満面に喜色を満たして言う彼女は誰より幸せそうで誰より綺麗だった。その側に立つ、男を除いては。 (神様……ここに本物のマゾが誕生しました……!) 恐怖に打ち震えて彼らを見つめる青年は、彼らと共に旅をしている自分を今すぐに抹消したくなった。 そうだ……自分は今一人でどこかこいつらとは違う場所を旅しているんだ…
そんな現実逃避に魂を飛ばす青年の傍らでこめかみを抉られていた男が目を覚ました。
「そ……そうか……そう言えばいいのか……よし、お前みたいな女なんて俺の美貌の足元にも及ばブゲッ」
「あんたのデブナス顔のドコが美貌ですって?あぁ~ん?あたしは自分の顔が褒められるのは嫌だけど事実以外で貶されるのももっと嫌いよ」
ピンヒールでぐりぐりと踏みにじられながら男は金切り声を上げる。
「煩いぞそこのブタ。もっときちんと始末しとかないと後々面倒か?」
そう言ってげしげしと男を踏みつける二人はこの上なく楽しそうで。
神様、やっぱマゾじゃなくてサドだったようです、それも超級の。 呟く青年は虚ろに空を見上げて、止めに入ったら間違いなく俺が蹴られるよなぁ、と男に十字を切って生け贄になってもらう事にした。
世間では彼もサドとして扱われているという濡れ衣もいいところな事実を、日常的な《イケニエ》たる彼はまだ知らない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 憎めない悪役
「おのれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」 憤怒の形相で青年の襟首を締め上げているのは教会の修道僧ということになっている男。 締め上げられている青年は真っ青な顔をしながら引き攣った笑いを浮かべている。 「お……落ち着いて」 「何が落ち着けじゃぁぁぁぁぁあぁぁああああ!!!」 「し……神父――――――!あんたの部下だろ!なんとかしてくれぇ!?」 「自業自得だろ。そのまま逝って良し」 「悪魔だぁぁぁ!」 そう、彼は自業自得である。 教会の枢機卿の屋敷から金目のものを根こそぎ強盗し、彼の率いる盗賊団(10人程度の弱小規模)で山分けしたのだから。教会などにのこのこ現れたらそのまま説法を延々と聞かせられ続けるか、軍に突き出されてもおかしくないはずだった。 この、教会でなければ。 「貴様らだけ贅沢しよって……!あそこの壺は俺も狙ってたのに――――――!!!!」 「えっ!?ちょっ、怒るトコ違くねえ!?」 「そいつは元盗賊だからな。忘れたか?この街は可哀相にも、聖十字教で一番の問題児達が集められた教会が立ってるんだぜ?」 吊り上げられてあたふたと慌てる盗賊首領をちらりと見やって、行儀悪くもウィスキーの瓶を片手に持って直接飲みながら、聖書を開いていた美貌の神父は、その紅い瞳をつまらなげに聖書へ落とし、言った。 「俺もあの狸オヤジのコレクションには多少興味があったんだがな」 それは、死刑宣告に等しい。 「ひぃっ!すすすすすすすすすすすっすすすすすすすすみまへん!ゆゆゆ許しっ!?」 て、と言う前に修道僧であるはずの男の厳しい顔が地獄の門番さながらの形相でにやりと笑った。礼拝堂の隅でポーカーに興じている修道僧たちの一角に向けて声を張り上げる。 「許可出たぜ!ボコっていいってよ!」 すると持っていたカードを放り捨てこちらに突進してくる。 「マジか!羨ましい事しやがってコイツ!」 「俺らだってナギさんが止めなけりゃよぉ!」 「あの糞ジジィのトコに踏み込んでるってのに、抜け駆けしやがって!」 「ひぎゃああああああああああ!?」 そう、ここでは悪役は憎まれない。 なぜならここは、 悪役よりあくどい聖職者達の住むまち。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― か弱いの定義について(一振りの刀、一挺の銃)
「あたしって弱いでしょ?」 「まあね、普通の女の子と聞かれれば頷けないけど強くはないんじゃん?」 「そうでしょ、力があるわけでもないし特殊な技能があるわけでもないし、ちょっと身体を鍛えてはいるけど腕相撲とかじゃビリから数えた方が早いのよね」 「うん、それで?」 「で、手加減って言うのは強い人の特権だと思うの」 「はいはい」 「つまり、弱い人は手加減なんか出来ないのね」 「うんうん」 「だから、私は手加減出来ないのよ」 「うん、でもそれってバズーカぶっ放しながら言うセリフじゃないと思うな」 「だって手加減できないんだもの」 「リアのはただ単に不器用とか面倒くさがりって言うんじゃ」 「余計な事を言うのはこの銃かしら」 「うわあああああああっ畜生ごめんなさいっ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 燈海高校3年A組、学級委員とその親友の会話
「なあ・・・聞いてほしい事があるんだ・・・」
本を読んでいると、前の席に座った我が親友にしてバイト禁止の我が校で隠すまでもなくバイト三昧の悪友、学校一の守銭奴だといわれている人物にして出会って半年のクラスメートが真剣な顔で声をかけてきた。 追い詰められているような感じで、何か気になって本から顔を上げて親友の顔を見た。 「どうした?」 なにか、そんなに困っている事があるのだろうか。
「実は俺・・・忍術の使い過ぎで、忍者に追われてるんだ」
真剣な顔で言う悪友の言葉を一瞬理解できなかった。
その意味を理解した後もしばらく頭の中で物凄い葛藤の嵐が吹き荒れたが、それがようやく収まって、とりあえず無難な答えを返す事にした。
「お前、病院行ってきたらどうだ?頭の。」
「ファァアアアアアアァァァァァック!!!!!!」
とりあえず、喚いて暴れる金の亡者を羽交い絞めにして黙らせた。
俺は、今まで経験しなかった事態に見舞われていた。
忍者である。 ハラキーリ・スキヤーキ・ニンジャー・の、忍者である。
それが、夜寝ると必ず天井にはり付いて寝首を斯くのだ。毎日。 流石に今では慣れたし家に罠を張っておくので侵入しては来なくなったが、なんたって忍者?と思ってある日一人捕まえてみた。罠のかけ方とか、合気道ならじいちゃんに教えて貰って知ってたから結構簡単だった。
そしたら
「おのれ!門外不出の忍びの術を私利私欲のために使い、私腹を肥やすクズどもが!」
とか罵られたのでじいちゃんに聞いてみたら、俺が罠のかけ方とか合気道だとか思ってたのは忍術だったらしい。
それから俺はたびたび忍者に狙われる様になった。 仕方がないので素っ裸にして大通りに転がしたり、両手足縛ったまま川に投げ込んだりしてるんだけどいまだに効果がない。
嫌がらせの質を上げるべきか?と思って、とりあえず出会って半年で親友になったクラスメートに事情を説明して、学校内で一番変人にして一番優秀、一番非常識で我が道(ゴーイング)を(マ)征(イウ)く(ェイ)頭脳を使わせてもらうことにした。
どう説明したものか・・・考えこんだ末にそのまま話すことにして、俺は奴に声をかけた。
「なあ・・・聞いて欲しい事があるんだ・・・」
慎重に口を開く。 奴は銀縁の眼鏡の奥の瞳を瞬かせて、顔を上げた。 相変わらずこっちの話を聞いているのかいないのかよく分からない無表情。本を閉じもしない。が、とりあえず俺は意を決して続きを言った。
そう、自分では合気道だと思っていた忍術を使って、俺は用心棒やらボディーガードやらいろいろアルバイトをしまくっていた。それがなんだか、向こうには気に障ったらしい。
すると奴は無表情のまま俺を見つめて3秒ほど黙り込み、そして言った。
「お前、病院行ってきたらどうだ?頭の」
学校一の変人に言われたくないわァァ!
すぐさま脳裏にツッコミがスパークし、とりあえず俺はその衝動を抑えるため叫んで暴れた。
「ファァアァァァァァアアアアアァァァック!!!!!」
その後奴に卍固めを食らわされ、いつも思うがなんでこいつはインテリの癖にこんなに強いんだと突っ込みながら俺はノックダウンされた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 見えてはいけないもの
「せんせー」
「ん?」
「見えませーん」
「見るなっ!」
「えー」
「えーじゃないっ!」
「良いじゃないですか先生、先生がちょっと右に動いてくれるだけでばっちり見えますから」
「動くかっ!」
「せーんせー」
「何だっ!」
「邪魔」
「ぐはッ!?先生の傷つきやすい心を壊す気か!?」
「うん」
「生徒が苛める!?」
「せんせー、だから邪魔だって」
「くっ、動かんぞ!」
「見せてよー、3歳の先生のお遊戯」
「ぜっっっっっったい見せん!おのれ校長ォォォォ!!!」
人をおちょくるのがだーい好きな校長と、とってもおちょくりやすい先生「達」のいるこの学校では、生徒は退屈なんてしないのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 詩人、もしくは変人
「何が食べたい?」
「おお、私の食べたいもの、それ即ちこの身の欲しがるもの。 其れは貴女の眼差し、 其れは貴女の愛、 其れは貴女の心、 其れは貴女の言葉、 其れは中華の薄味の炒飯。 おお、我が身に降りかかる光線の嵐よ。そなたは何故私を殺したもうのか? 光の届かぬ暗い穴蔵へ何ゆえ私を追いたてるのか? おお、唯一真実を囀る麗しき小鳥よ、その瑞々しく艶やかな唇を開いて私を真実の荒野へ解き放っておくれ」
「中華の炒飯が食べたいんならそれだけを言わんかっ!」
「無駄でございますよ。『何で自分が注目されてるんだ、穴があったら入りたくなる。何で注目されてるのか教えてくれ』と、意訳するとこのような感じでしょう、注目されているのは貴方が馬鹿だからです」
「おお!真実の荒野へ解き放たれた私はその余りに酷い光景に目を奪われる!
神よ、神よ!この余りに酷い真実を知った私に慈悲を与えたまえ!いずこかで行われるサバト、子羊たちの悲鳴をどうかお聞き下さい!ああ光よ、正義の下へ!そしてしがないくすみの一端である私は光に照らされ、陰に隠れて光線の嵐を見送るのです」
「恥ずかしいからどこか別の場所で揉め事が起こってくれたらその隙に逃げよう、と」
「お前がそのキチガイじみた台詞を吐かなければ済むことだろうがっ!」
「無駄です。彼の思考回路はおそらく異次元を彷徨っておられます。貴方より一週間だけ付き合いの長い私は、3日目で既に諦めました」
「おお!私の左右に咲く美しい花々よ!真実の荒野に住む麗しい小鳥達よ!貴女方の眼差し、言葉が私に向くだけで私は至高の喜びを得ることが出来る!それ即ちヴァルハラであり」
「俺は男だっっっっっ!!!!!!」
「無駄でございます」
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